2017.11.11

スバル360

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ひと昔前ならSFにすぎなかった自動運転車の実用化がそろそろ現実味をおびてきた。

現代のクルマは、ろくなトレーニングも受けていない運転者が、原始的な操舵用ホイールと足踏みペダルを曲芸的に操作して、内燃機関の出力と車輌の進行方向を微調整しつつ、ときには路上の歩行者スレスレを走らせるという狂気のマシーンだ。
こんな恐ろしいシステムで、ときには時速100㎞ものスピードを出して運行しているのだから、事故が起きないほうが奇跡。現状は危険きわまりないので、さっさとすべてのクルマを自動運転にすべきだろう。

クルマはこれまで日進月歩の進化を続けてきた。ハイブリッドなどの新しい動力装置、コンピュータ制御の燃料噴射やブレーキシステム、果てはカーナビやエアコン、オーディオ装置に至るまで、ありとあらゆる部分が劇的に変貌し続け、現在のクルマで昔から構造が変わっていない装置はワイパーだけといっても過言ではない。
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1958年、自動車産業黎明期の我が国に、一台の先進的なクルマが誕生した。

高度な電子制御はもちろん、エアコンもパワーウインドウも、それどころかシートベルトすらついていないお粗末きわまりない小型車だ。
にもかかわらず、スバル360、通称テントウムシと呼ばれるこの車は日本人の生活に大革命をもたらした。平均的な会社員がオーナードライバーとなり、週末に(といっても、当時は土曜は休みじゃなかったけど)家族でドライブに出かけるという、夢のような新時代のライフスタイルを切り拓いたのだ。

ギリギリまでボディを小さく軽くしつつも強度を保ち、しかも大人4人が乗れるキャビンを確保しようとした苦心のデザインは、今なお独特の美しさと新鮮な輝きを放っている。

しかし実際に乗ってみると、このクルマが放っているのは無作法な騒音と煙たい2ストロークオイルのにおいだ。悲しくなるほどパワーがなく、ローギアで踏みっぱの全開にしないとちょっとした坂道すら上がれない。ブレーキを踏んでも、むしろ逆に加速してるんじゃないかと錯覚するほど止まらない。
たまたまこの試乗直後に現代の軽自動車に乗ったが、両車の性能のあまりの違いに、いったいこれが同じ乗り物なのかと愕然とさせられた。

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が、それでももしかしたら、ある種のクルマはべつにコレでいいんじゃないかとも思う。
まあまあ走るし、まあまあ止まり、ふつうに曲がり、荷物と人が運べる。エアコンはないが、三角窓やボンネットのベンチレーターを開ければぬるま風くらいは浴びられ、死ぬほどつらいわけでもない。

スバル360以降、約60年のクルマの歴史と進歩に思いをめぐらせる有意義なショートドライブになるハズだった。なのに室内がモクモク煙たすぎてろくに頭が回らず、たいした感想がもてなかったのが残念だ。

171030subaru36004シンプルなインパネ。折れそうに細いハンドルも軽量化のため。

171030subaru36005なんと運転しながら憧れのラジオ放送が聞ける!

171030subaru36006平成の日本人には違和感満載の前開きドア

171030subaru36007ピラーの三角窓を開けて走ると意外にしっかり涼しい

171030subaru36009リアハッチ内に、356ccエンジンとバラ色の高度経済成長の夢を搭載

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2012.07.01

SMART CABRIO

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スマートは、時計メーカーのスウォッチとダイムラーベンツが共同開発し、20世紀末から販売している2人乗りマイクロカーだ。このバージョンは2001年に発売されたスマート・カブリオ。TRITOPと呼ばれる電動トップをそなえ、オープンエア・モータリングも楽しめる。

オモチャくさくて可愛らしいルックスが特徴的なクルマだが、見た目以上によく走る。

120701m02smartオープンカーにもかかわらずボディ剛性が高く、コーナリング時にヘンなよじれ感が出ないのは、全体のコンパクトさが有利に働くためだろう。足回りもガッチリしていて、多少クイックな操作をしてもよくついてくる。
が、シャーシーの速さに比べると、599cc直列3気筒エンジンはちょっと頼りない。チョロチョロすばしこいが、かといってアスファルトを蹴ってガツンと加速するクルマじゃないってところは、まあ見た目どおりなんだろう。

120701m03smartオートマチック・トランスミッションには独特のクセがある。加速時のシフトアップで、ギア抜けっぽいタイムラグが出るから、最初はどんなドライバーでも戸惑う。マニュアルモードに切り替えれば少しはマシだが、それでも違和感ありありで、ついシフトミスしたかと思うほどだ。

このスマート・カブリオは、古い親友の愛車だ。初めてのマイカー購入にあたり「何か珍しいクルマがほしい」と相談されたので、冗談のつもりで一緒に販売店に試乗に行ったら、マジで契約してしまったから驚いた。
勢いでつい買っちゃったクルマのわりに気に入ったらしく、10年以上、地味に乗り続けていたようだが、最近プラスチックパーツが劣化してあちこち壊れてきたため、やむなく買い換えることになったという。

最後の思い出に、近所をグルグル試乗させてもらった。しかし、どうせなら売り飛ばす前にダートで試乗して、一度くらいゴロンと横転させてみたかった。せっかくあんなにコロコロとよく転がりそうなクルマなのに、それを体験せずに手放すとは、なんだかもったいない話である。
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2011.04.15

TOYOTA COROLLA X ASSISTA

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誰もが認めるキング・オブ・大衆車、トヨタカローラ。1966年の生産開始から脈々と続く、大衆車の世界基準ともいえるシリーズだ。
これはE120型として2000年代前半に生産されたもの。Xアシスタパッケージというビジネスタイプの省装備モデルで、1300ccガソリンエンジンを載せたFF車である。

クルマを車検に出したとき、代車として借りてきた。1日あたりたった750円(保険料のみ)という破格の使用料だった。

110414m02_3ほとんどのスポーツ派ドライバーにとって、カローラは営業マンや主婦が乗る、何から何までどーでもいい安物の車として認識されているのではなかろうか。僕もそう思っていた。
が、大衆車のスタンダードとして長らく世界に君臨してきたこのクルマには、やはりそれだけの理由がある。おそろしいことに、実際に乗ってみると、カローラにはまったく何の不足も感じない。いわば、もともと何の不足もないことだけを唯一の目的として作られた、ただもうひたすら何の不足もないことだけが取り柄のクルマなのである。

走りも取り立てて面白くはない。でも、すごくつまらないわけでもない。

110414m03_3エンジンは、ドライブレンジだけだと、さすがにトルクが細くて頼りないが、オーバードライブをカットしてLレンジやセカンドレンジできっちり回せば、それなりにパワー感があり、ささやかなスポーツフィーリングが味わえる。どこもかしこも横を向いてドリドリしないと気が済まない変態ドライバーじゃなければ、これだけ走れば充分だろう。

足回りは硬すぎず柔らかすぎず、へんに腰砕けにもならないから、無理さえしなければ不安はない。ブレーキは、ダウンヒルをガンガン攻めるのはちょっとまずいが、ふつうに踏んでるぶんには文句なくきく。FF車の特性もあってか、ステアリングの応答性も素晴らしい。
そのうえ、簡単装備のクルマとかいいながら、ラジオもエアコンも自動ドアロックもパワーウインドウも全部ついている。デザインにはそれとなく高級感があり、目立ちすぎないわりに押し出しがきく絶妙のバランスだ。
生真面目を絵に描いて額に入れてコンクリ詰めにしたような、ガチガチにお堅いメーカーの開発担当者に、「さあ、このクルマで、この値段で、いったい何が不満?」と、いちいち挑戦状を突きつけられているよーな気分になるクルマである。

750円で借りられる中古カローラを、日本の自動車技術のひとつの極致だと感じてしまうのは、たんに哀れな貧乏ドライバータカハシが、めったに高級車に乗れない暮らしをしているせいなのかもしれない。が、地球上のほとんどの地域で真に必要とされるのは、やはりこういうクルマなのだ。
カローラは、まったく非の打ちどころのない名車だ。でも残念ながらタカハシは、絶対に生涯カローラを買わないだろう。そこがまたカローラのカローラたるゆえんでもある。

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2010.04.25

DASTUN Bluebird SSS type610

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ダットサン ブルーバードの4代目にあたる610型ブルーバードSSS。1980年代前半に撮った写真だ。

このクルマは1971年に発表されたブルーバードUで、当時は通称「ブルユー」として一般に知られていた。SSSはスーパー・スポーツ・セダンの略で、シリーズ中では上級グレードにあたる……といったことは、さっき調べて初めて知った。
なにしろ乗った当時は、どこかから転がり出てきたポンコツにすぎず、車名にも性能にもまったく興味がなかったからだ。

Datsunbluebirdsss100425m022010年代の今なら、たとえ10年前のクルマでも、「ちょっと古い中古車」としてじゅうぶん実用に耐える性能があるが、80年代の「10年前のクルマ」といえば、まだまだ自動車技術のレベルが低かった70年代のマシンだから、ほとんどスクラップ同然のシロモノだった。
このブルーバードも例外ではない。免許を取ったばかりの友人が父親のクルマを借り出し、運転の練習を兼ねて大学までドライブしてきたところを試乗させてもらったが、ちょっと乗るだけで、細部まで徹底的にガタがきているのがハッキリわかるほどボロボロだった。

Datsunbluebirdsss100425m03もともと腐ったポンコツなんだから、あともうちょっとよけいに壊れたってべつに構やしないだろうと独自の判断をくだし、手近なダートに乗り入れて走らせてみたが、パワーはないしステアリングはダルダルだしサスは腰砕けだしで、曲がるたびにフロアをガリガリ地べたにこすってばかりで、ちっとも前に進まない。
一時は国際ラリーでも活躍したクルマだそうだが、よっぽど改造しまくらないとラリーなんか絶対ムリ! という、なんだか物悲しい性能だった。

Datsunbluebirdsss100425m04これはマジつまんないカス車だね、二束三文の無価値な鉄クズだよと、ウルトラ的確&スーパー丁寧なインプレッションコメントを添えて友人にクルマを返却したところ、なぜか彼は憤然として運転席に乗り込み、バタンと勢いよくドアをしめると、何度か軽くエンストしつつもエンジンを吹かし、ガリガリとギア鳴りの音だけを残して、またたく間に立ち去ってしまった。

彼の振る舞いは、まさに無礼のきわみだが、これも若さゆえの過ちとして、今となっては寛大な心で許してやりたいと思っている。
それにしても彼は今どうしているのだろう。試乗の日からすでに25年以上、あれから一度も連絡がなく、ようとして行くえが知れない。
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2008.06.24

ホンダ シティ GA2 ダートラ仕様

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 JAF会報誌のすみっこに書いてあった案内を見て「モータースポーツ体験イベント」に申し込み、モーターランド野沢でホンダ シティのダートラ仕様車に乗った。

080624m01 ホンダ シティGA2型は、総排気量1296cc、最高出力100psの小型FF車だ。シティの名を冠したクルマとしては2代目にあたる。カワイイ丸目の初代シティが爆発的にヒットしたのとは対照的に、ブアイソな角目の2代目シティは徹底的に不人気で、何から何までパッとしないまま1993年に生産を終えた。が、それは一般ユーザーの評価であって、モータースポーツ界での評価は高く、かつてはわりとよく活躍したクルマだったそうだ。

080624m02 今回乗せてもらったのは、この2代目シティに4点式シートベルトとロールバーを取り付け、ダート用タイヤを履かせたダートラ仕様車。カラーリングやグレードは何種類かあったが、どれも同じシティ GA2型だから、どれも同じような乗り味だった。
 たしかにアンダーパワーのわりに運動性は軽快で機敏。ダート用タイヤのおかげもあって、安定してよく走る。誰にでも運転しやすいイージーなクルマだ。

080624m03 ただ、FF車には特有のドライビング・テクニックがある。
 前輪を回して駆動力を得るFF車は、FR車やミドシップ車のように、とりあえずオーバースピード気味にコーナーに突っ込んでからアクセルで姿勢を作ろうとすると、フロントが逃げてアウトにはらんでしまう。だからコーナー進入スピードを正確にコントロールする技術と、コーナーワークを補助するプレーキのテクニックが欠かせない(ようだ)。
 が、ノロマなタコドライバーがそんな難しいテクニックをいきなり学べるワケがない。今回の体験走行でタカハシが学べたのは、「4点式シートベルトは異常にややこしくて自力では締められない」ということと、「ロールバーがあると、しょっちゅう頭をぶつけて痛い」という2点だけだった。

080624m04 さて、この体験イベントでは、ダートにパイロンを立てて作った15秒程度のコースを7回走らせてもらえた。つまりタカハシは、およそ1分45秒間クルマを運転できたわけだ。参加費は保険料を含めて9500円だから、走行1秒あたりの費用は約90円48銭。これを換算すると、走行1時間あたりでは、なんと32万5728円もの莫大な費用がかかった計算になる。

080624m05 バカ高いと思う人もいるかもしれない。だが四輪モータースポーツとは、もともとそういうものだ。庶民や貧乏人、とりわけ赤貧イラストレーターの想像を絶する巨額の金がかかる。たとえ参加者にとっては目からドボドボと血の涙を流すほど高額の出費であっても、コースを借り切り、車両を用意し、多くのスタッフを配置する主催者からすれば、この程度の収益じゃちっとも儲からないばかりか、むしろ損するだけなのだ。
 誰もがちょっとした運転テクニックを学べる、なかなかステキなイベントではあったが、それ以上に、誰もが四輪モータースポーツにおける鉄の第一原理「支払わざる者、楽しむべからずの法則」を骨身にしみて学べる、なかなかシビアなイベントでもあった。
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2008.02.02

SUZUKI エスクード コンバーチブル

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スズキ エスクードは、1988年に発表されたライト・クロスカントリー車だ。その後、徐々にラグジュアリー化して現在に至っているが、初期のエスクードは、いかにもクロカン車らしいシンプルなクルマだった。
080202m021590ccのSOHC4サイクル直列4気筒ノーマル・アスピレーションエンジンは、せいぜい82psのパワーしか出ない代わりにフラットで扱いやすく、ショート・ホイールベースの軽量ボディと相まって、運動性能もなかなかのものだった。

このエスクード コンバーチブルは、1990年代初頭に母が買って以来、十数年にわたって実家の主力マシンとして働いてきたクルマだ。せいぜい老いた母が町内に買い物に行くとき乗るだけで、オフロードをビンビン走り回るよーなことはほとんどなかったと思われており、じつはときどきタカハシが山中に持ち込んで、こっそり走らせていたことを知る者は少ない。

080202m03写真は同社製のジムニー660インタークーラー・ターボを追走しているところ。走りに徹したジムニーに較べると、エスクードの走りはややモタつく印象があるものの、コンパクトな車体のおかげでダートのフルコーナリングでもさほどストレスはない。もっと大型のパジェロなんかになると、まるでトラックみたいな大雑把な挙動にげんなりさせられることもあるが、エスクードはそれなりにスポーツカーっぽい動きをしてくれるのがいいところだ。
とはいえ、タカハシのよーなタコドライバーにとって、クロカン4WDでの高速コーナリングはそう簡単なものではない。FR車と違って、ドリフトに入ったときにはすでに遠心力の限界を越えて手のつけようがなくなってることが多いからだ。そんなわけで当時は、コーナーで派手にとっちらかり、路面のキックバックでぐるんぐるん回るステアリングに振り回されて珍妙なタコ踊りを繰り広げつつ、一直線に草むらに突っ込んでゆく悲しいタカハシの姿がしばしばみられたものである。

080202m04ルーフはせっかくのコンバーチブル・タイプだったが、幌の着脱が異常に面倒くさいので、めったに開けなかった。へたすると開閉に20分くらいかかるから、急に雨が降ると、もたもたしているうちにびしょ濡れになってしまう。いうまでもなく冬はやたらに寒く、夏はおそろしく暑い。春にはスギの花粉、秋にはブタクサの花粉が舞い込み、季節を問わず鳥のフンが頭上に降り注いでくる。いいことがひとつもないから、幌を開けた記憶はほとんどない。

昨年末、帰省時にエスクードを走らせたとき、クラッチがズルズル滑ってマトモに走らなくなっているのを発見。家族一同に惜しまれつつも、ただちに廃車が決まった。
クラッチがこんなにひどくズルズルになっているのは、ずっと近所を走って買い物ばかりしてきた母の運転のせいなのはもちろんのことだが、ときどきこっそり山を走っては草むらに突っ込んで楽しんできたタカハシの運転のせいも、ほんのちょっとだけ含まれている可能性がまったくなくはないとはいえなくないことも多少なりと考えられなくもない。ま、どっちにしてもこのまま死ぬまで母に内緒にしておきさえすれば、それで済むことなんだが。
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2006.08.12

AW11 トヨタ MR2

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SF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』には、タイムトリップができるクルマが登場する。タイヤをパチッと水平に倒し、過去と未来を自在に飛び回れる改造スーパーカー「デロリアン」だ。写真のクルマは、デロリアン風トヨタMR2。残念ながらタイムトリップはできないが、後輪だけはちゃんと水平に改造してある。
060812m06_1参考までに改造方法を紹介しておこう。やりかたはごく簡単で、手ごろな高速コーナーに4速全開で進入し、2回転半スピンし、タイヤを歩道の縁石にヒットするだけでOK。作業はものの十秒もかからずに終わる。
タカハシはオーナーである母に無断で改造を施したため、あとで大目玉をくらったが、自分のクルマを自分で改造するだけなら、警察署と保険屋以外には誰も文句をいう人はいないだろう。

060812m02トヨタMR2、AW11は、1984年に発表された国産初のミドシップ2シーターだ。ミドシップとは、クルマの真ん中にエンジンを積んで後輪を回す駆動方式をいう。フロントにエンジンを積むFRやFFとは異なり、重いエンジンを中央に据えているので、クルマの前後重量バランスがいいのが最大のメリットだ。
このMR2は、ドライバーのすぐ後に1587CC水冷4気筒DOHC16バルブの4A-Gエンジンを積んだ初期型。最高出力は130PSだからたいしたパワーじゃないが、960kgの軽量ボディとミドシップ・レイアウトのおかげでくるくると軽快に走る。

060812m03いかにもスポーツカーっぽくみえるMR2だが、じつはガチガチのミドシップ・スポーツではない。圧倒的に速いシャーシーに非力なエンジンを組み合わせた、誰でも簡単に運転できるマイルドな乗用車だ。だが、ドライバーが調子に乗って限界を踏み越えたとたん、このクルマは突如として凶暴化する。
ふつうのFR車は、コーナリング限界を超えてもリアがずるずる滑るだけだから別にどうってことはないが、MR2は、いつどこでどんなふうに限界がくるのか予測がつかない。ときにはコーナリング中にフロア全体がドカンと真横に平行移動し、修正蛇をあてたとたん、とんでもない方向にすっ飛んでゆくこともある。横滑りを収束させようとわずかにアクセルを戻しただけで、逆にノーズが急激にインに切れ込み、かえって冷や汗ダラダラのフルカウンターを強いられることもあった。ホントか嘘か知らないが、いったん限界を超えてしまうとプロのラリードライバーでさえ制御不能に陥り、とっちらかって横転させることがあると噂されていたほどだ。

060812m04オーナーの母はもちろん、家族はけっこう大切にMR2に乗っていたのだが、しょっちゅうヘマをやらかしてはクルマを壊し、夕食時にべそをかきながら家に帰ってくるタカハシは、家庭内でもたいへん評判が悪かった。
カーブを曲がろうとして道ばたのドブに落ち、ダートのギャップにぶつかってフロントスポイラーを曲げ、ジャンプで腹をこすって下まわりやマフラーを壊した。アクセルをぶんぶん吹かして走り回っていたら、エンジンが焼きついてパーになり、丸ごと載せ替えたこともある。最後にはクラッチが滑ってモクモク白煙を上げ、ぜんぜん走れなくなってしまったので、やむなく廃棄することになった。
時空を自在に旅するデロリアンMR2といえども、生者必滅・諸行無常の大原理からは、やはり逃れられなかったようである。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、ああ、ありがたいありがたい。
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2006.05.24

スズキジムニー JA11C

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タカハシは、ここ数年続けて信州で「AFOライダーキャンプ」を開催している。選りすぐりのAFOライダーばかりが集まるイベントだが、なかでも"カリスマAFOライダー"と目されているのが寺崎 勉さんだ。全国のライダーから「野宿の神」と崇められている寺崎さんは、いつも風のようにふらりと現れたかと思うといきなり飲み始め、夜が明けると、焼けたオイルと熟柿の香りだけを残してまた風のように去ってゆく。

060524m02これまでいったい何人の若者が寺崎さんの『さすらいの野宿ライダーになる本』を読んで、ドロ沼野宿人生にハマり込んでいったことだろうか。野宿に取り憑かれた彼らは学業を放り出し、試験に落ちて留年し、就職口を失い、親に勘当され、恋人に去られ、むざむざ栄達の道を踏みはずしていった。
タカハシが今こうして路頭に迷っている原因もそこにある。金がなく名誉がなく体力がなく知能が低く運転がヘタで友達がおらずしょっちゅう犬に噛まれ靴ひもが切れパソコンが故障し町内会費が高く家柄が悪く、ときには江戸時代の先祖の霊までが祟る。すべて寺崎さんの責任だ。若い頃あんな本さえ読まなければ……と、いまだに悔やまれてならない。

060524m03寺崎さんはジムニー専門誌『スーパースージー』の林道取材を兼ねて、JA11Cに乗って現れた。「野宿の神」は、じつは「ジムニーの達人」でもある。試乗を許してもらったので、さっそく埃まみれの運転席に乗り込んだ。
ジムニーはただの軽自動車ではない。55psを生み出す直列3気筒657ccSOHCインタークーラーターボで武装した国産最強のクロスカントリー4WDだ。だがせっかくのクロカン能力も、タカハシの手にかかると、なぜかたちまち無力化されてしまう。ギアを4輪駆動ハイにしていれば、とりあえずギャップをよじ登ったり、よじ下ったりくらいはできるが、より本格的な4輪駆動ローに切り替えると、強烈なトルクを使いこなせず、目も当てられないほど運転がギクシャクしてしまう。
060524m05やむなくクロカン走行は諦め、2輪駆動に切り替えてフラットダートを走ってみると、軽快な操縦性に驚かされた。高速コーナリングではグラグラするかと思っていたら、きっちり安定していて、切り返しもスムーズ。むろん横転しそうな挙動はまったく出ない。小さく、軽く、キビキビ動くから、フィールドによってはライトウェイトFRスポーツカーより速そうだ。ジムニーはやはりただの軽自動車ではなく、本格ダートスポーツカーなのだ。

ただ以前乗ったノーマルジムニーは、もっとトップヘヴィだったし、ピッチングモーションも大きかった。これには独自の軽量チューンが効いてるのかもしれない。寺崎さんはジムニーのパーツを手当たり次第にもぎとり、削れる部分をとことん削り、グラム単位の軽量化に挑んでいる。「エンジンとタイヤ以外は何もいらない」とでもいわんばかりにあらゆるパーツをガンガンもぎとり、徹底的な軽量化に突き進む狂気に満ちたその手法は『寺崎 勉のジムニー軽量化計画』(山海堂刊/1575円)に詳しいから、そっちを読むといいだろう。
でもじつはタカハシはまだこの本を読んでいない。うっかり読んで、ドロ沼ジムニー人生にハマり込んだりしたら、それこそ悔やんでも悔やみきれないからである。
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