レーシング・サイドカー「トムボーイ」
サイドカーというと、大型バイクに取り付けた側車に女の子や犬を乗せてのんびり街を走っている様子を思い浮かべる人が多いだろう。だが、レース専用のレーシング・サイドカーは、同じサイドカーの仲間でも、それとはほとんど別の乗り物だ。
公道用のサイドカーだと、横にちょこんと乗っている女の子や犬(パッセンジャーという)は、たんなるデッドウエイトに過ぎないが、レーシング・サイドカーでは、むしろパッセンジャーがマシンコントロールの主役となる。
タカハシは、長野県佐久市で開かれたバイクブロス祭2014でレーシング・サイドカー「トムボーイ」に体験試乗する機会にめぐまれた。
トムボーイは、カートっぽい小さなボディにホンダのモトクロッサーCR85エンジンを搭載、三輪にカート用SLタイヤを履かせたF4クラスのマシンだ。
なんだか戦闘機っぽいカッコよさはあるものの、マシンデザインがあまりにも奇抜すぎて、見ただけでは乗り方すらよくわからない。
サイドカー・ドライバーは、腹這いのポジションでハンドルバーを握り、スポーツバイクとほぼ同じ操作系をコントロールする。つまりスロットル、ブレーキ、シフト、ステアリングはドライバーの担当だ。
いっぽうパッセンジャーは、ボディにくっついた4か所のグラブバーを握り替えながら、左ターンでは車体から乗り出すように左へ荷重、右ターンでは逆にドライバーに寄りかかるように右へ荷重してコーナリングを制御する。
パッセンジャーには、ボディアクションを素早く正確におこなう身体能力と繊細な荷重感覚が必要だが、地上高数センチという極端に低い視点が生み出す圧倒的なスピード感を楽しむ特権が与えられる。
パッセンジャーのアクションは荷重変化を通じてドライバーに伝わり、ドライバーの操作はマシンの挙動を通じてパッセンジャーに伝わる。爆音の中で走り続けるドライバーとパッセンジャーは、直接会話はできなくても、以心伝心で協力してマシンを走らせる。まるでチーム・スポーツのような独特の面白さがあった。
タカハシ試乗時のドライバーは、2013年のチャンプ木下悦雄さん。パッセンジャーが超ヘタレなタカハシでも、ふつうにまっすぐ走り、ふつうに曲がれたのは、ひとえにドライバーの卓越したスキルのたまものだろう。
レーシング・サイドカーの魅力のひとつは、今のところ競技人口が極端に少ないこと。世界を獲りたい野望に燃える若きライダー/ドライバーにはオススメのレースカテゴリーだ。
現在、日本タイトルを争うマシンが、たった10台前後という超マイナーな競技だからこそ、努力しだいで誰でもタイトルを狙えるチャンスがあるともいえる。
そのぶんレーシング・サイドカーに乗れる機会はまだ少ない。受け身のままではチャンスがないのが現実なので、興味があったら協会に問い合わせてほしい。バイクライダーやカートドライバーなら、まちがいなくヤミツキになれるエキサイティングな乗り物だ。
ちなみに右の写真でドライバー側に乗っているのは地元・佐久市の非公認キャラ、「ハイぶりっ子ちゃん」。レーシング・サイドカーとともに超マイナーの世界から飛び出し、一気にメジャー路線を驀進してほしいキャラである。
※photo by Teppei Nishino(OUT RIDER)
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