HONDA MT50
ホンダMT50は、1979年に発売された原付オフローダーだ……といっても、すでに発売されていたロードモデルのMB50をオフ用にリメイクしたマシンだから、タイヤやマフラーをちょこっと付け替えてでっち上げたインスタントな"オフロード風"バイクともいえる。
専用設計のオフ車が常識となった現在では、なんだか安直に感じる設計だが、道路舗装率がまだ低く、日本中に砂利道があふれていた当時、ライダーにとってダート走行はさほど特別なことじゃなかったから、手近な河原や空き地で遊ぶためにいちいち専用のバイクを欲しがる人もそう多くはなく、こんなバイクでも充分楽しめたのだろう。
山梨のMXコースに遊びに行ったら、バイク仲間のカズさんがMT50を持ってきていたので、さっそく試乗させてもらうことにした。
免許取りたての少年時代、よく近所で乗り回していた懐かしいバイクだ。空冷2ストローク単気筒49ccエンジンの素朴なエキゾーストがミョーに郷愁を誘う。
いちおうオフロード・バイクだし、分不相応なモトクロス・タイヤまで履いていて、気分だけは一人前のダートランナーだが、さすがに本格的なMXをやるにはちょっと厳しい性能だ。
めいっぱい握り込んでもスコーンと空走する非力なフロントブレーキ、わずかなギャップでグニャリと腰が砕けるプアなサス、ピーピーうるさいだけで全域スカスカなエンジンなど、どれをとってもダートをガッツリ激走できるマシンとはいいがたい。
なかでもマズいのが駆動系だ。
タカハシが試乗したわずか10分の間に、なんと2回もチェーンがはずれた。
なんだコレは!
まだたった35年しか乗っていないバイクなのに!
MT50は、アポロ11号よりも10年新しく、戦艦大和よりは39年も新しい。大阪城と比べれば、ざっと396年も新しいマシンである。(てか、大阪城ってマシンなのか?)
つまり工業技術史的にみるかぎり、MT50はほとんど最新型ともいっても過言ではないピカピカのニュー・マシンだ。
にもかかわらず、駆動系がこんなに壊れやすいのは、明らかにメーカーの設計ミスであろう。
あらためてマシン各部を詳しくチェックしてみると、あちこちに致命的な欠陥がみつかった。
本来ならばシート下に格納されているハズのリアサスが、なぜか後輪の両サイドに2本も付いている。本来ならば円盤型のハズのブレーキディスクは、なぜか不細工なドラム型に変形している。本来ならばセルモーターがついているハズなのに、なぜか足蹴りペダルまでついていた。
こんなずさんな設計の欠陥車では、いくらタカハシが慎重にライディングしたって、チェーンがはずれてしまうのも無理はない。
たしかに一見すると、まるでタカハシが他人から借りたバイクを好き勝手に乗り回し、壊したかのように勘違いする人もいるだろう。
が、正しい歴史観と広い社会的視野をもって考えれば、それが事実でないことは明らかだ。
もしバイクが故障したら、いちいちライダーの資質を問うことなく、まず粗悪なバイクを設計したメーカーの責任を追及しよう。
次に、修理技術がある人ならば、けっして働き惜しみをせず、すみやかに壊れたバイクを修理してあげてほしい。
逆にやってはいけないことは、タカハシを犯人呼ばわりして非難し、各種工具を投げつけることである。
残念ながら今回、タカハシが修理作業中のみんなの写真を撮って楽しく遊んでいたところ、何人かの友人たちからスパナとタイヤレバーを投げつけられ、この数日間、それがずっと後頭部に刺さったままになっている。
そういえば、さっきから自分でもなんとなく身勝手すぎることばかり口走っているような気がしなくもないが、これもすべてタカハシの脳を鋭利な工具で破壊した不届きな友人たちの責任である。
この記事に何か問題がある場合、苦情は彼らに持ち込むようにしてもらいたい。
【photo by S.Masaki & Fuckun】
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