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October 2010

2010.10.14

シュールストレミング

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シュールストレミング。一般には耳慣れない名だが、一部の好事家の脳には深く濃く刻まれている特別な名だ。

これはスウェーデン製のニシンの缶詰である。しかし、そんじょそこらのサバ缶なんぞとは大違いの超スペシャルな魚缶だ。「世界一くさい食品」として勇名を馳せる一品で、8000Au以上という破壊的な臭気指数を誇る。日本随一の悪臭干物として知られるくさやでさえ、せいぜい1200Auどまりだから、6倍以上のニオイだ。

10101403春先にニシンを塩で漬け込み、発酵しかけたヤツを強引に缶に詰め込んであるから、密閉後も内部でえんえんと発酵が進み、夏場あたりにはガスで缶がパンパンに膨らんでくる。
このため、うっかり航空機で運ぶと、気圧低下で大爆発が起き、テロをもしのぐ大惨事になる。先日、知人のテロリストに聞いてみたところ、彼らは放射能兵器を「きたない爆弾」と呼び、シュールストレミングを「くさい爆弾」と呼んでいるそうだ。当然ながら、この缶詰の空輸は固く禁じられている。

さてそのシュールストレミングを知り合いのライター、Iさんが旅のみやげとして持ち帰り、10人ほどの仲間と試食する機会に恵まれた。

10101402開封と同時に猛烈な臭気を放つガスが噴出するため、本場スウェーデンでも、シュールストレミングは戸外か水中で開缶されている。今回、開缶係は念のためカッパとサングラス、マスクを着用し、試食テーブルのある庭先から数十メートル離れた畑の中で缶を切った。

「プシュ」とかすかな音が聞こえた直後、鼻をつく悪臭が周囲1ヘクタールに充満。庭全体をドブのにおいが覆う。強烈にクサい。
ただ、たしかに食品とは認めがたい臭気ではあるものの、嗅いだ瞬間にショック死するような危険はない。まあせいぜい、ドブ川にどっぷりつかった野良犬100匹分程度のニオイである。

10101404_2まだ発酵が続いているのか、缶の中にはブクブクと泡立つシュールストレミングが満ちている。匙ですくってパンに乗せて食べると、ツーンと鼻にくる。しかし味は意外にクセがなく、わりと爽やかなさっぱり系。やや酸味のある軽口のイカの塩辛といったところだ。
いったん口に入れてしまえば、においもあまり気にならないから、これならたいしたことないなと思ったが、じつは後味が、かなりたいしたものだった。

一口でも食べると、その後数時間は、口腔から胃粘膜にかけての上部消化管系がすべてドブ川か下水管になったような異様なにおいに悩まされる。
10101405開封したとたん、たちまち周囲のハエが呼び寄せられ、缶がハエだらけになってしまうところにも、シュールストレミングの恐るべきドブ風味パワーがうかがわれる。

現地では、国民がこぞってフツーにしょっちゅう食べているといわれるシュールストレミングだが、Iさんがストックホルムのスーパーで買ったときには、缶はすっかり店ざらしになり、店員さえその値段を知らなかったという。じつは現地でも、こんなもの、それほど頻繁には食べないのかもしれない。

10101406猛烈にくさいが、かといってわざわざそれをガマンしてまで食べたいほどはうまくもないシュールストレミング。10人がかりで試食に挑んだが、内容量の9割を土中深く廃棄する結果となった。
我が国伝統のモッタイナイ精神には反するが、それでも異国情緒あふるるあの強烈な臭気には、資源と費用のムダを承知でトライするだけの価値がある。

値段はIさんもよく覚えてないそーだが、印象としては、だいたい1000円くらいだったとのこと。スウェーデンに行けば簡単に手に入るが、世界平和の早期実現のため、くれぐれも空輸で持ち帰るのだけは避けてほしい。
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